はじめに

韓国のことわざに‘말 한마디에 천 냥 빚도 갚는다 .’というのがあります。「言葉一つで千両の借りを返す」、つまり「言葉は言いよう、使いよう」だという意味です。難しいことに直面したとき、ちょっと気の利いた言葉一つかけることで円満に解決することがある反面、言葉を間違って使ってしまうと大変なことにもなりかねません。言葉はとても大きな影響を与えるものです。

この本を手に取られたみなさんは、すでにほかの本で韓国語の基礎は勉強なさった方々だと思います。しかしみなさんの勉強した韓国語は本当に「生きて」いるのでしょうか。

韓国人の知人宅に泊まった翌朝、その家の子供に“안녕히 주무셨어요 ?”と言ったり、友達と一緒に食事をしていて“이것 좀 드셔 보세요 .”とは言ったりはしません。飛行機が揺れて「気分が悪い」ときに“기분이 나빠요 .”と言うと、隣の人に誤解を与えかねません。満員バスから降りるときに“미안해요 . 저를 내리게 해 주세요 .”と言ったら周囲の人は「?」という顔をするでしょう。デパートの店員に“화장실은 어디에 있어요 ?”と聞く韓国人はいないでしょう。みなさんは韓国の人の前で、まだこのような「NG韓国語」をついつい使っていませんか。

韓国語は、年齢の差や、親しさの度合いによって使う言葉が変化する言語です。子供には子供なりに、友達には友達なりに、上司や先輩には年上なりに、使う言い回しや語尾が違ってくるのです。初めのうちは他人の子供にぞんざいな言葉を使ったり、自分の両親のことを話すのに敬語を使ったりすることに違和感を覚え、なかなか口から出てこないと思います。この言葉の壁をどう乗り越えるかが韓国語マスターのコツなのです。また日本語と韓国語は文法的にも似ているために、日本語につられてつい、安易に直訳をするケースも目だちます。みなさんもそろそろこのような弱点を克服して、初級の殻を破ってみませんか。

この本ではさらに上を目指す韓国語学習者のために、「自然な形で」「無理なくマスターできる」会話文を豊富に収録しました。

空港カウンターで「燃油サーチャージは、払うんですか(p.121)」、デパートの特売品売り場で「これはどこが訳あり品なんですか(p.214)」、会社にクレーム電話をかけて「カスタマーサービスにつないでいただけますか(p.249)」、病院の外来で「バスケットをして、突き指をしてしまいました(p.194)」、友達と携帯で話をしていて「バッテリーがなくなったので、充電してからもう一度かけivるよ(p.258)」、飲み屋に入って「とりあえずビールください(p.231)」…。こんな会話が韓国人のようにすぐに口から出てきたらいいですよね。このような気の利いた言い方を知っているだけで、空気は変わります。外国語だけに限らず、会話がうまい人は、頭の中のたくさんの引き出しから「場の雰囲気に合った」言葉を臨機応変に選び出しています。みなさんもこの本を大いに活用して、その引き出しの中にしまっておくレパートリーをたくさん増やしてください。そうすれば「外国人が使うぎこちない韓国語」ではなく、「韓国人のように聞こえるなめらかな韓国語」が話せるようになるはずです。また、本書の随所に配置した写真は、筆者が撮影したものです。文字だけではなく画像を通じても「生きた韓国語」の勉強をしていただければと思い、アルバムの中から選んで挿入しました。

例文を作るに当たっては、韓国語ネイティブ・スピーカーの姜貞龍(강정용)さん、孫榮完(손영완)さんほか、多くの方々のお世話になりました。ここにお礼を申し上げます。また、東京・虎ノ門の「アイケーブリッジ外語学院」の通訳翻訳コースで机を並べた日下隆博さんには、日本人の立場から最終的に細かいチェックと、足りない部分の加筆をしていただきました。これらのみなさんの協力でこの本ができあがりました。この場を借りてお礼を申し上げます。

また、本書に収録した表現をきれいな声で吹き込んでくださった林周禧(임주희)さん、李泓馥(이홍복)さんにもお礼を申し上げます。そして、今回のこの本の制作にあたり細かいところまで気を配ってくださった(株)語研編集部の島袋一郎さんにも心より感謝いたします。

最後に、みなさんが韓国語で意思の疎通を円滑に、そして違和感なくできるように、少しでもお手伝いができれば幸いです。

2011年 初夏
今井久美雄
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