はじめに

英語は絶えず変化している生きた言語で,おもしろいスラングや慣用句,言い回しにあふれています。そうした口語表現が英語を豊かにし,魅力的なものにしているのです。英語のネイティブスピーカーは,日々そうした表現を職場でも学校でも,また家庭でも使っています。

英語学習教材の執筆者として,英語のテキストや自習書を見てみると,その多くが文法やボキャブラリーを重視していることがわかります。どちらも語学の学習には大切なもので,その知識をしっかりと身につける必要があります。ただし,私たちが日ごろ読んだり聞いたりする英語にかなりの割合で含まれている口語表現にも,もっと関心を払うべきです。そのような思いから,私は本書を書くことを思い立ちました。

口語表現はなぜ重要なのでしょう。それは,実際のコミュニケーションできわめて重要な役割を果たすからです。ネイティブスピーカーは,イディオムやスラング,ことわざ,比喩的な表現などを会話の中でひんぱんに用います。それは,相手が同じネイティブスピーカーであろうとあるまいと関係ありません。したがって,ネイティブスピーカーのしゃべる英語を正しく理解するためには,口語表現の知識をしっかり身につけておくと非常に役立ちます。

本書でめざしているのは,それぞれの表現についてのイメージを心の中にうまく作り出すことによって,その詳しい内容や実際の使われ方をよりよく理解できるようにすることです。たとえば,That’s a horse of another color.(それはまったく別の話だ)という口語表現は,ただの単語の集まりではなく,どのような場合にどのような気持ちで使われるのかがわかってくるのです。

ここで大事になるのが,それぞれの英語の表現を明瞭で自然な日本語へ翻訳する作業です。その点で,本書の翻訳を引き受けていただいた小宮徹氏にはたいへんお世話になりました。小宮氏は,英語教材開発における幅広い経験と英語に対する深い知識を持っており,本書のために綿密な翻訳をしていただきました。その努力の結果は,どのページの上にも表れています。本書の完成にあたり,小宮氏の協力に深く感謝いたします。

編集者として本書の執筆チームに加わり,すべての作業をとりまとめていただいたのは,この分野の出版活動に熱意を持って取り組んでおられる株式会社 語研の田尻まど香氏です。今回のような大きなプロジェクトにおける田尻氏の細部にわたる気配りと調整の手腕は,賞賛に値するものでした。同氏の果たされた大きな貢献に感謝するとともに,今回いっしょに仕事ができたことはたいへん光栄なことでした。

本書で英語を学ぶ読者のみなさんには,リストアップされた表現をまず,自分の知識として蓄えていただきたいと思います。それぞれの表現を何度か見聞きしているうちに,やがて自信をもって自分の会話の中でも使うことができるようになるでしょう。ただし,スラングなどの表現の中には,使うときに注意が必要なものもあります。そのような表現には,注意を促すためのマークを付けてあります。

ほかの言語と同様,英語は数世紀にわたる長い伝統を持っています。したがって,外国語を学ぶことは,一種の旅に出るようなものでしょう。本書によって,あなたの旅が楽しいものとなることを願っています。旅の道のりは長く,途中でつらくなることもあるでしょう。しかし,あなたが熱意を失わず,前向きに取り組んでいけば,本書がよき旅の伴侶となって,あなたの語学力は一歩一歩着実に高まっていくに違いありません。

感謝を込めて

アンドルー・ベネット
(Andrew E. Bennett)

ネイティブスピーカーが日本人の英語学習者について言う皮肉のひとつに,「日本人は英語を英語ではなく日本語で勉強するんだね」というものがあります。この人が言いたいことは,英語の勉強では日本語の助けなしに生の英語にどんどん触れるべきだということです。これはたしかに正論かもしれませんが,日本で暮らし,毎日忙しい生活を送っている私たちにはなかなか実行が難しいことも事実です。

また,英語圏の国々で実際に話されているような,生活に密着したさまざまな口語表現は,たとえどんなに英語を読んだり聞いたりしている人でも,なかなか出合うことがありません。また,ふと目や耳にしたとしても記憶に残らず,すぐに忘れてしまうでしょう。

そこで,口語表現とその意味を1200項目リストアップした本書が大きな意味を持つのです。それぞれの表現についての詳しい,そしてときにはユーモラスな解説と例文を読むことで,ネイティブスピーカーが日々行っているような日常会話をいつでもどこでも疑似体験できるからです。ですから,本書を使った勉強法としては,必要に応じて読むというのではなく,順番にかまわずどのページからでも繰り返し読むことをおすすめします。そうすることで,読んだ口語表現が自分で体験したかのように記憶に残り,実際のコミュニケーションの場でも大いに役立ってくれることでしょう。

小宮 徹
前のページに戻る