はじめに

みなさんは,韓国の人と話をしていて,適切な単語や表現がとっさに頭に浮かんでこないというもどかしい経験をしたことがありませんか。ふつうに韓国の人とあいさつを交わし,ソウルの街で買い物もでき,またテレビで韓国語のニュースを聞いたり,韓国の新聞は読めるのに,ふだん何気なく使う単語が口から出てこなかったりすると落ち込みます。「これを韓国語で何と言うんだろうか」と,ふと考えると,思考が停止してしまいます。

韓流ブームに乗って,韓国語の旅行会話集や簡単な日常会話集が数多く出版されてきましたが,さまざまなシチュエーションでの「気の利いた表現」「言いたいけれど言えない表現」「ネイティブが実際に使っている韓国語らしい表現」を集めた実生活に即した会話集はあまり多くありません。

この『暮らしの韓国語 ネイティブ表現6000』は,全体を19 の章に分け,その中をさらに細かく状況設定して,みなさんが即戦力として使える会話を集めました。会話は「フォーマルな表現」と,親しい友人などの間で使う「パンマル表現」を織り交ぜてありますので,TPO に合わせてご自分で組み合わせて活用してください。

「暮らしの韓国語表現」と銘打ったように,この本で扱っている会話は「生活」に即した場面でふつうに使われているものです。たとえば食事の支度を思い浮かべたときに「米を研ぐ」「ご飯を炊く」「ご飯が堅い」「ご飯が水っぽい」「ご飯が焦げてしまった」「おかわりする」…といった表現がすぐに口から出ますか。また,ジャガイモやニンジンの「皮をむいて」「一口大に切る」ことから始まって,タマネギを「きつね色になるまで炒めて」「ルーを溶かし入れて」…と,「カレーの作り方」を韓国語で説明できますか。

留学中の学生さんなら「昨日休んだんだけど,ノートある?」「試験,ヤマをかけたけど外れちゃったわ」「一夜漬けはダメだね」なんて,気軽に韓国人の学生さんと話したいですよね。

子育て中のママさんと公園で話をするときには「よだれをたらす」「うんちをもらす」「はいはいをする」「おむつを替える」「人見知りをする」という表現が必要ですね。

いまでは日常生活の中に不可欠なIT関連用語もくせ者です。「コンピュータがフリーズした」「再起動する」「ファイルを上書きする」など,なかなか対応する韓国語表現が思いつかないでしょう。休日に韓国の人を誘ってゴルフに出かける方も多いでしょう。

「バンカーにはまる」「ティーショットを打つ」「パットを決める」「ピン近くに寄せる」というような表現を知らないと,一緒にコースを回ってもおもしろくありません。

スポーツといえば,サッカーと野球です。「ベストフォーに入る」「ゴールを突破する」や「サヨナラのチャンスだ」「4 番打者を敬遠する」「送りバントを失敗する」という言い方もちゃんと載っています。

「頭が痛い」「おなかが痛い」「熱がある」といった簡単な症状を訴えることができる人でも,「急にろれつが回らなくなった」「しゃっくりが止まらない」「冷たいものが歯にしみる」というようなちょっと複雑な症状を訴えることは難しいでしょう。けがで「アキレス腱を切った」「足をねんざした」「突き指をした」ときのために,こういった表現を覚えておくことも必要ですね。

韓国からのお客さんを案内して寿司屋に繰り出したとき「光り物は大丈夫ですか」「さび抜きで頼みましょうか」「今だったらエビが旬ですね」「握りを一人前お土産で」など,空気を読んだ会話がさっと口から出てきますか。

そして,あいさつもしかりです。1年365 日“안녕하세요?” では能がありません。「もうすっかり春めいてきましたね」「まるで初夏を思わせる陽気ですね」「残暑もようやく一段落したようですね」「ずいぶん日が短くなったと思ったら,今日はもう冬至なんですね」といった春夏秋冬の簡単なあいさつなども,韓国語ですっと口から出るようになれば,相手はびっくりするでしょう。

例文は,見開きページの左側に対話の形で3つ,右側に短文の形で10 パターン程度が提示してあります。そして関連表現や語彙なども必要に応じて載せてあります。みなさんが韓国で生活したり,日本で韓国人とコミュニケーションを取ったりするのに必要な表現をできるだけ収録しましたので,既成の会話集ではちょっと物足りないという読者のためにも,大いに役立つと信じています。

なお,この会話集を作るに当たり,姜貞龍(강정용)さん,金玄玉(김현옥)さん,孫榮完(손영완)さんには,例文作成など多岐にわたりいろいろと協力してもらいました。高興俊(고흥준)さんにも,ネイティブの立場でさまざまな助言をいただきました。また旧知の西岡洋さんにも細かい作業を手伝っていただきました。この場を借りてお礼を申し上げます。そして,今回のこの本の制作に当たり細かいところまで気を配ってくださった(株)語研編集部の島袋一郎さん,西山美穂さんにも心より感謝いたします。

最後になりますが,この本が微力ながら韓国語を勉強なさっているみなさんのお役に立つことができれば,これ以上幸いなことはありません。

「学問に王道なし(학문에는 왕도가 없다)」と言いますが,自分自身の学習の盲点を地道に補って重ねていくことが,中級から上級に進む上での近道といえるでしょう。新しい発見をしながら毎日コツコツとネイティブに近づいていく,決して終わりのない勉強こそが,外国語学習の醍醐味でもあると思います。

2013 年 初春 川崎にて

著者 今井 久美雄
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