はじめに

多くの人にとってイタリア語はビジネスで必要というよりも,趣味が高じて学ぼうとする言語ではないでしょうか。イタリアは多方面の「楽しみ」を内包している国ですから,そのぶん学習目的も多様化します。ある人にとっては旅行に行った際に料理のメニューがわかったり,買い物ができるようになるために,またある人にとってはオペラを歌ったり,美術館のカタログを理解できるようになるためだったりするのでしょう。あるいは,サッカーやF 1 観戦に必要だという方もいらっしゃるかもしれません。そうなると,話す力,聴き取る力,読む力,書く力のうち,どこを重点的に勉強したいのかも人によって違ってきます。しかしながら,そのすべてのベースとなる文法の学習は,共通しておさえておくべき事柄と言えるでしょう。単なる旅行会話の丸暗記や表面的な学習はその場しのぎのもので,せっかく覚えた単語や文章もすぐに忘れてしまい,次のステップへとつながっていかないからです。

本書は,どのような学習目的を持っている方でも,マスターしておいたほうがよい基礎文法を,できるだけ楽しく,短期間で効率的に学習できるような目的で書かれました。全部で30 課からなるので,頑張って1 日1 課ずつ学習していけば1 か月で,1 週間に1 課であれば8 か月ほどで終了します。

もちろん,それですぐにイタリア語をペラペラに話せたり,スラスラ読めたりするようになるわけではありません。外国語学習がそれほど甘くはないことは,皆さんもすでに英語学習で嫌というほど思い知らされているのではないでしょうか。本書に書かれていることは,数学に例えると「公式集」のようなものです。数学で多くの問題を繰り返し解いていかなければ真の実力がつかないのと同じように,このテキストで身につけたことを「実践」していく必要があります。皆さんが本書を「卒業」したら,次はそれぞれの「楽しみ」に応じて,素敵な一歩を踏み出していただければいいのではないでしょうか。イタリア人の友人や恋人をつくる,映画やオペラを字幕なしで見てみる,イタリア語で日記をつけてみる,料理のレシピや小説を読んでみる,といった具合に。

語学学習は決して苦行ではありません。学習者本人が「楽しむ」ことが最大の効果を上げることを常に忘れないでください。

2013年8月
松浦弘明
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