はじめに
本書は、TOEICのハイスコアに挑戦しようとしている人、共通語としての英語の能力を身につけ、国際社会で仕事をするための有効な手段としたい、と考えている人を対象とするイディオム集である。
日本のような均質文化を持つ社会においては、多くを語らなくても状況からある程度察しがつく場合が多いが、異質の文化が共存する社会ではそうはいかない。とりわけ国際社会では、ことばに出して言わなかったことは何もなかったのと同じである。日本は何を考えているのか、国際社会でどのような役割を果たそうとしているのか。これは単に政府間レベルの問題ではない。我々ひとりひとりがもっと多くを語ることを求められているのである。異なる文化の障壁を越えて、相手の話に耳を傾け、自己の主張を正しく伝え合うことが必要である。このような国際コミュニケーションに必要な英語能力を測定することを目的としているのが、TOEIC(Test of English for International Communication)である。
TOEICは、特定の文化を研究することを目的とする英語ではなく、異文化間の共通語としての英語によるコミュニケーション能力を測定しようというのであるから、特定の(たとえば、英米の)文化的色彩(cultural bias)の強いものはできるだけ排除しようとしている。一般に、イディオムというと、文化的背景を色濃く宿したもの(たとえば、日本語なら「猫に小判」、英語なら「豚に真珠」など)を多く連想しやすい。言語は文化そのものであるから、このようなイディオムを知ることは、特定の文化を理解するうえで欠くことができないが、本書では共通語としての英語を習得することを優先目標と考え、TOEICの趣旨に沿って、この種のイディオムは取り上げなかった。
本書に収録したイディオムのほとんどは、日常の口語表現に欠くことのできないものである(文章語にしか用いられないものについては、そのつど《文》と標記した)。そして、本書で言うイディオムとは、2語以上の語群で各語の意味の総和とは異なる意味を持つものや、慣用上つねに共起関係にあると思われる語の結びつき(idiomatic collocation)を指す。外国語として英語を学習する場合、前者は理解力の養成に、後者は発表力の養成に役立つ。本書の姉妹編『TOEIC TEST必須単語2400』とあわせて役立ててほしい。単語編と同様、(参照見出しを除く)すべての見出し語に例文を付している。本書が世に出るにあたっては、語研の奥村民夫編集長にひとかたならぬお世話になったことを申し添え、感謝の意を表する次第である。
東京外国語学校(現東京外国語大学)卒業。元相模女子大学教授。専門は英語学、英語教育学。大学生および社会人対象の英語習得法と教材開発に力を注いでいる。
著書に『TOEIC® TESTパーフェクト英文法』(語研刊)など。