はじめに
本書に先行する『ニュース英語パワーボキャビル4000語』(語研)は好評を博し、おかげさまで増刷を重ねました。斬新な構成と、覚えやすさを追求したテーマ別語彙分類が好評だったようです。電子メールや読者カードを通じて、英検1級合格など感謝のメッセージを送ってくださった方もいらっしゃいました。
本書では、前書でカバーできなかったメディア報道の分野を取り上げ、三大メディアである新聞、雑誌、放送の例文に各界著名人のインタビューを加えることにより、ニュースソースを拡大しました。また、紹介する語彙項目は原則として前書で紹介されていないものを選び、派生語や関連語を充実させてあります。さらに、前書で要望の多かったExerciseのページを設け、見出し語を確実に覚えられたかどうかを確認するためにTOEICの語彙問題(PartV)の形式で行う練習問題も用意しました。
前書は私が担当する2校の国立大学の時事英語の講義でも使用しました。ABC,CNN,BBCなどのニュースを聞き取る演習の際に、高校生で習っているはずの語彙項目の聞き取りに苦労し、また活字になっても意味の取れない学生がかなりいました。これは大学受験後の語彙力の急降下の表れだと思います。この観察から本書では、高校レベルの動詞と形容詞を数多く紹介し、学校英語と時事英語との間に生じる語彙ギャップの解消を図れるように工夫しました。
本書と前書で学べる約7,000語のメディア英語の語彙に、中学、高校で習う基本語彙があれば、あらゆる分野の記事の読解やニュースの聞き取りが実感できるようになるはずです。しかし、それだけでは十分とは言えません。語彙力の強化は教材のみに頼らず、常に学習者本人の判断により新規の語彙を積極的に覚えていく、独立独歩のストラテジーが必要です。これだけ覚えれば十分というのではなく、これだけ知っておかなければならないという気持ちでなるべく短期間にこれらの7,000語を覚えられるようにしてください。英検2級以上のレベルの学習者なら、1年ぐらいをかけて2冊の見出し語項目(太字)は英日、日英のどちらからでも口から出るようにしましょう。さらにあと1年かけて残りの項目を残さず覚えてください。
本書は新聞、雑誌、放送、インタビューのいずれのメディアに接する際も携帯するようにしてください。聞き取れた、または読んで意味の取れた語彙で本書に載っているものがあれば印を付けてください。できれば日付も一緒に書き込むとよいでしょう。
「英語の力は単語の力」と昔から言いますが、これには賛否両論があります。まず否定派は、単語力だけでは不十分であり、構文の知識など他の不可欠な要素があると言います。確かにそのとおりで、語彙だけでは部分的な意味を全体に集約して理解したり、また発信することはできません。あるいは、単語の力が不十分でも文脈などから意味を推測することができると言います。しかし、文脈の理解には、まず文章に出ている語彙の大部分を知っていることが大前提で、さらに背景知識が重要です。メディアで取り上げられる分野はある程度の専門の知識、大学の講義レベルの内容のものが含まれます。
限定された知識と語彙力で音声または活字の文章を理解しようとするトップ・ダウン式の理解ばかりでは英語力は向上しません。このアプローチが効力を発するのは、十分な背景知識と語彙力が備わってからです。日常会話や旅行の決まり文句を覚えることとは異なり、メディアの英語をマスターするには日ごろから新聞、雑誌を読み、ニュースに接しながら教養を高めつつ、意識的、計画的に語彙を増やす必要があることは言うまでもありません。本書を活用して効率的なボキャビルを進めつつ、生の英語(authentic English)に毎日接することを忘れないでください。
最後に、この続編の企画と構成でご示唆いただいた(株)語研の奥村民夫氏と、前書を読んで励ましの言葉を送ってくれた読者、及び常にさまざまなインスピレーションを与えてくれる私のゼミ生に心よりお礼を申し上げます。英語力を高めたい人は、周囲の人間から変人扱いされるほど英語に没頭することが大切で、またそれなりの時間の投資を惜しんではなりません。まさに聖書にある “to those to whom much is given, much is required” ということです。本書が擦り切れ、空中分解するぐらい使い込んで、爆発的なボキャビルを達成してください。
小林敏彦