※ためし読みの色は実際の書籍とは異なります。
はじめに
日本語でも英語でも同様に,コロケーションがよい悪い,あるいは「言いたいことはわかるけど,そんな言い方はしない」という言葉に皆さんも接したことがあるでしょう。コロケーションとは,まさにこの「そんな言い方をする・しない」という部分が指す「自然な言い回し」のことです。これは文法などに基づく規則ではありません。ネイティブスピーカーが日常的にほとんど無意識に使いこなしている,あくまで慣用的な語と語の組み合わせです。
少し例を見てみましょう。「強い風」「強い雨」と英語で表現したい場合,strong wind に対してheavy rain となります。つまり自然な英語では「強い風」はstrong wind と言い,heavy wind とは言いません。「強い雨」はheavy rain と言い,strong rain とは言いません[1]。別の例として「計画する」はdo planning,それに対し「準備する」はmake arrangements となります。「計画する」はdo planning が自然であり,make planning とは言いません。「準備する」はmake arrangements が自然であり,do arrangements とは言いません。これら strong wind,heavy rain,do planning,makearrangements のように慣用的に確立している語と語の結びつきが「コロケーション」(collocation)です。
冒頭で述べたように,コロケーションは規則ではなく慣用的な組み合わせですから,strong rain と言ったり,make planning と言ったりしても,多くの場合言いたいことは理解してもらえるでしょう。しかし,「自然な英語」とは言えません。コロケーションに誤りがあると,すぐには理解してもらえない,あるいは相手によってはうまく意味が通じないリスクが生じます。相手がすぐに理解できる自然な英語で意味を正確に伝えるためには,正しいコロケーションを使う必要があるのです。
日常的な英語のコミュニケーションでは,コロケーションの表現が70 パーセントを占めるとも言われています[2]。しかし,正しいコロケーションの4表現を学ぶことは,英語を外国語として学ぶ私たちにとって簡単ではありません。規則性がないので,慣用的な語の組み合わせをひとつひとつ覚えていかなければならないためです。自然なコロケーションを覚えるには,大量の英語を聞いたり,読んだりして,インプットを増やすしかありません。語彙を豊富にするだけでなく,自然なコロケーションを使えるようになることも,コミュニケーションのためにとても大切です。
本書は,学習に時間と情報が必要なコロケーションを少しでも効率よく,集中的に学んでいただくための語彙学習書です。口語英語のキーワード103語を選び,そのコロケーション情報を7,000 以上収録しています。どの語彙も口語英語での使用頻度が高いものです。つまり,「やさしい語彙」と言えます。ところが,それらの語彙をネイティブ感覚で組み合わせて,自然な言い回し(lexical units)として表現するのは,上級レベルの英語学習者にとってもたいへん難しいことです。本書をぜひ手元に置いて,「どのような語彙を続ければよいのだろうか」「『すごくいいね!』と言いたいけど,very ばかり使っている。ほかにどんな副詞をgood の前に使うことができるのかな」など,単語同士の結びつきに迷ったときに開いていただきたいと思います。特に英語のスピーキング,ライティングという発信型スキル向上のために本書を活用していただければ,著者としてこれ以上の喜びはありません。
[1] Oxford Collocations Dictionary, Oxford University Press, 2009
[2] 『仕事の英語 この単語はこう使う!』,日向清人,桐原書店,2007
本書は口語英語のキーワード 103 語について,そのコロケーション情報(7,000 以上)をチャート(図表),語彙リスト,例文の 3 形式で示した英語コロケーション学習書です。これらのコロケーションは統計的に見ても口語英語必須のものであり,ノンネイティブスピーカーが口語英語を習得するうえで優先して学ぶべき語彙情報です。
- Oxford Collocations Dictionary, Oxford University Press, 2009
- The BBI Combinatory Dictionary of English, John Benjamins Publishing Company, 1986
- Corpus of Contemporary American English, Brigham Young University
- Google Books Ngram Viewer
- 『小学館オックスフォード英語コロケーション辞典』(iOS アプリ),物書堂,2016
本書に収録したコロケーション語彙は,もちろん見出し語と結びつくすべての語彙ではありません。あくまでも代表的なものです。収録した語彙以外にも数多くのコロケーションが使われますから,ご自分でリスト化するなどして,どんどん覚えていきましょう。
⚬本書の構成
本書は「基本動詞」「基本名詞」「基本形容詞」の 3 セクションから成ります。各セクションは,見出し語ごとに【使い方】【チャートで覚えるコロケーション】【文で覚えるコロケーション】の 3 項目に分かれています。
使い方
見出し語の基本的な意味と使い方を簡単に説明しました。
チャートで覚えるコロケーション
見出し語と慣用的に組み合わせて使われる代表的なコロケーション語彙を,3 つ程度のチャート(図表)を使って視覚的に把握できるように示しました。各チャートの後に,同様のパターンで使われるコロケーション語彙をリスト形式でまとめました。このコロケーション語彙リストは,意味の関連性や使われる文脈に沿って分類して,覚えやすくしました。
なお,チャート中の sb は somebody,sth は something の省略形です。
「基本動詞」セクションでは,見出し語の動詞を修飾する副詞をまとめていますが,副詞は基本的に動詞の前にも後ろにも置くことができます。本書では,動詞の目的語となる名詞と識別しやすいように,チャートでは動詞の前に置いています。
文で覚えるコロケーション
チャートで示した代表的なコロケーション語彙の具体的な使用例を,できるだけ簡潔な例文で示しました。
⚬本書の活用法
本書は 7,000 以上のコロケーション情報を収録しています。どの語彙も口語英語できわめて使用頻度の高い(つまり,やさしい)ものですが,それぞれをネイティブ感覚で組み合わせて,自然な言い回し(lexical units)で表現するのは,上級レベルの英語学習者でも難しいことです。
コロケーションを学習する最大の目的は,英語を話し,書くための発信型語彙力を単語単位でなく,もっと大きな連語単位で身につけることです。そのためには,単に記憶するだけではなく,必ず音読を繰り返して,自分で使える形で覚え込んでください。そして,覚え込んだコロケーションは会話,メール,テキストメッセージ,そして Twitter や Facebook などでの書き込みで積極的に使うことが大切です。
コロケーションの知識は発信型スキルだけでなく,リスニング,リーディングという受信型スキルを伸ばすためにもきわめて有用です。単語単位でなく,もっと大きな連語単位で意味を理解できるようになれば,理解の速度が上がります。また,後に続く語句を予測しながら聞いて読むことができるようになります。その結果,早く話される英語を聞いて理解する力が伸び,英語を読んで理解する速度も上がります。
また,【すでに知っている語+未知の語(学習対象語)】の 2 語を組み合わせたコロケーション学習は,語を単独で学ぶ語彙学習に比べて記憶の保持と想起(思い出すこと)の点で効果が高いという研究報告もあります1。本書が採用した,口語英語のキーワードとコロケーション語彙を組み合わせた語彙学習の効果をぜひ体験してください。
テンプル大学大学院修士課程修了(TESOL)。バーミンガム大学大学院修士課程修了(翻訳学)。英検1級対策をメインとするアルカディア・コミュニケーションズ主宰。近畿大学・関西大学非常勤講師。
主要著書:『新TOEIC TESTリスニング完全攻略』『新TOEIC TESTプレ受験600問』(以上語研),『ゼロからスタート英会話』『会話できる英文法大特訓』(以上Jリサーチ出版),『英語プレゼンテーション すぐに使える技術と表現』(ベレ出版),『英語資格三冠王へ!』(明日香出版社),『第一歩からの英会話旅行編』『第一歩からの英会話交友編』(以上,青灯社)。
主要資格:ケンブリッジ英検(CPE),英検1級,TOEIC990点,通訳案内業国家資格。